【狐のお社~湖~】
〜とある湖の前〜
腱『…ここにヤマガミ様がいるの?』
狐『そのはずなんじゃが…ケン!中入って見てきてくれるか?』
腱『………僕、泳げないよ?それよりコン吉が見に行けばいいじゃん!』
狐『その呼び名はやめろと言うとろうに…仕方ないのう…』
コン吉が飛び込んだ湖は静かで、波紋がゆらりゆらりと広がって行った。
湖には空が写っていて青々とした中にもなにか親近感を感じた。
狐『…ぷはぁー!おらんのう…。はて、もう目覚めてしまわれたのだろうか…』
腱『…コン吉〜!見張り任されてるならちゃんとしてよ〜!なんで見失うんだよ〜!』
狐(くそー…返す言葉もないわ)
腱『これじゃいつまでたっても見つからないよ〜』
狐「なんか考えてくるから待っておれ!」
僕がお社の狐のコン吉とヤマガミ様を眠らせる為に裏山を探索しはじめたのはいつごろだったかな?
あれは確か秋の野球大会の前日、向かいに住んでる親友のいっちゃんと、裏山の秘密の特訓場でキャッチボールをしてたんだ。
そこには結構前からあると思う古いお社があったんだけど、僕はそれを特訓場の目印にしてたんだ。
腱『いっちゃん!いくよ!』
圭一『うん!』
ビュッ!
パシッ!
腱『いっちゃん!明日の試合絶対勝とうな!』
圭一『けんちゃんが先発なら絶対勝てるよ!』
腱『いっちゃんも打ってくれよ!』
圭一『うん!絶対打つ!』
ビュッ!
パシッ!
ゴーーン!
腱『あっ!』
ドテンッ!
キャッチボールに夢中になって、時間もたつのも忘れてたんだ、そしたらいつもの五時の鐘。
驚いて、落ち葉で足を滑らせてしまったんだ。
腱(…いててて)
ガシャーン!
腱(…あ!)
腱『いっちゃん!大丈夫!』
圭一『いててて、うん…なんとか…』
僕の投げた球がお社の方にいってしまったらしく、いっちゃんは必死でそれを捕ったみたい。それで勢いがついてお社が壊れてしまったんだ。
腱『…いっちゃん、こういうやつって漫画とかだとこの後祟りだぞー!とか言ってなんかでてくるよね…』
最近読んだ漫画の中にこんな感じで神様の物を壊して祟りにあったのを丁度読んだ所だったから余計に…
圭一『…う、うん………に、逃げようよ!』
腱、圭一『わーーー!』
僕たちは怖くなって逃げてしまったんだ。
その夜の事だった。
狐「…ケン…ケン!」
腱『…だ、誰!』
狐「オマエタチガ壊したお社…ソノ罪ツグナッテモラウゾ…」
腱『や、やだよ!殺さないでよー!』
狐「ヤダトイッテモノウ…」
その言葉の後、強い光が僕を包んだ。
気が付いたら目の前にいっちゃんがいたんだ。
腱『いっちゃん!助けて!キツネに呪われる!』
圭一『…』
腱『いっちゃん!なんかしゃべってよー!』
圭一『…うーん』
腱『いっちゃーん!』
狐「…」
腱『くそ狐!こーなったらなんでもしてやるよ!』
狐「カクゴヲキメタカ…ケイイチも脅かしたカラヘイキダロウ」
腱『いっちゃんがなんだって?豊木の大砲いっちゃんになんかしてみろ!豊木の豪腕腱がこてんぱんにしてやる!』
狐「コッチノ話じゃ、そもそも野球で勝負する気はないわい。」
腱『くっそー…おい!コン吉!僕は何すればいいんだ?』
狐「こ、コン吉!…まぁいいか。指示はおってするから、なーに、取って食ったりはしないから安心しろ。」
こうして僕は狐をコン吉と呼び、指示に従うことにした。
あの会話の後しばらく僕は眠らされていたようなんだけど、どこで寝てたんだろう…家にも帰ってないようだし、わからないや。
ヒューーーン…
ブツ…
ザーーーーーー
しばらくして、何か電源が落ちてしまったような感覚に襲われた。
気が付いたら僕は空を見ていた。
腱(…あれ?ここは裏山の?うーん…、あ、あれはコン吉!)
狐「…」
腱『コン吉!なんでこんな所に?』
狐「…」
腱『あれ?まぁ、いっか。さて、いっちゃん探さなきゃ!』
僕はふと空を見上げた、なんとなく親近感を覚えた。
腱(…空ってこんなに近かったっけ?)
流れゆく雲に見とれているとコン吉が話し掛けてきた。
狐「…ケン!ケイイチの事じゃが…」
腱『あ!コン吉!いっちゃんは?』
狐「コン吉はやめろって。ふむ、でケイイチじゃがお前次第で元に戻してやらん事もない。お前達が壊したお社を元に戻せたらのう。」
腱『よし!いますぐやるよ!こんなの簡単だよ!』
狐「材木は国産の檜がいいの〜、釘は使わずにな、わしは釘よりも宮大工の職人気質の仕事が好きでのう〜」
腱『そんなのできないよー!』
狐(ニヤリ)
狐「もう一つ条件があるんじゃが…」
腱『何!』
狐「実はお前達がお社を壊した事で、その昔わしが封印したヤマガミ様が目覚めそうでのう。そいつをまた眠らせて欲しいのじゃ」
腱『…そっちのができそうかなぁ〜』
狐「よし、決まりじゃな。」
そんなこんなで僕はコン吉とヤマガミ様を眠らせに行く事にしたんだ。
腱(…ヤマガミ様ってどんなだろう…でも大抵お酒で眠らせれば平気なはず!あの漫画の封印の術とか使えるようになったりするのかな?)
狐「…ケン、ヤマガミ様は湖におるはずじゃ。わしはちと用事があるから先に行っててくれ。」
腱『わかった!コン吉!』
狐「…コン吉…うーむ。」
僕はコン吉と別れた後、1人で湖まで行ったんだけど、、、
腱『こんな所にいるのかなぁ?でも結構広いし…なんかでそうだなぁ…』
狐「ケン。」
腱『わー!びっくりさせないでよ!』
突然現れたコン吉に驚いた、けど本当にこんな所にヤマガミ様がいるのか信じられなかったんだけど、どうやらコン吉も[全国狐のお社委員会]?と言う会の定期全国集会とかなんとかよくわからない会に参加してるうちに見失ってしまったんだって。
土地神なのにどっか行かなきゃなんないなんて変わってるよね。
身代わりは置いてくらしいんだけど、お社市って言う通販で買ったら不良品だったってコン吉が怒ってた(笑)
湖から出てきたコン吉も見つからなかったらしく、なんか考えるからちょっと待っててくれって言ってどっかいっちゃった。
腱『いつになったら元に戻るんだろう…』
シュッ!
ピョンピョンピョン…ポチャン
スー…
ザパァ!
?[…我の眠りを妨げるのは誰だ。]
腱『……か、亀が喋ったーーーー!』
コン吉を待ちながら湖で水切りをしていたら、目の前にうちで買ってる柴犬ほどの大きさの亀が現われたんだ。
亀[亀とはなんだ、我はヤマガミぞ。確かに風体は亀だがのう〜。]
腱『え!君が!』
亀[体は小さくとも、心は広い。まだ30年ほどしか生きておらんがな。]
腱『ふーん…やっぱ長生きはしてるんだね。』
亀[えらく簡単に受け入れたな〜。まぁいい。わしはこれから前任のヤマガミに挨拶しにいかねばならぬ。たまたまお社が壊れて目を覚まされたんだが、どうやらお役目交代の時期だったらしく、せっかく目が覚めたのに〜と嘆いておられた。]
腱『へ?じゃあ、君はまだヤマガミになったばかりなの?』
亀[ふむ。まだ大暴れするほどの力はないから安心じゃぞ。かと言ってヤマを荒らすものはけっして許さないがな。我が力を侮るではないぞ。]
腱『う、うん。…よく喋るね…』
亀[そうかのう?まぁ仕方あるまい、わしもこうして誰かと話をするのは何年ぶりじゃったかのう…たまにはこうして若い者と話すのも……いた!いたたた!]
狐「…なんじゃ?このお喋りな亀は?」
腱『あ!コン吉!』
亀[いたたた!コラ!わしの高貴な甲羅を爪でガリガリするな!]
腱『コン吉、新しいヤマガミさんらしいよ。』
狐「…へ?」
亀[わかったか!この無礼者!]
腱『亀蔵、お社の狐だよ。』
亀[こら!亀蔵とはなん………へ?]
狐(ニヤリ)
狐「…さぁてこのお喋りな亀どうしてくれようかのう!」
亀[待て!いや、待ってください、お願いしますから裏返さないでー!わしはまだなんの力もないぞい!前任のヤマガミ様に挨拶に行くところじゃわい!]
腱『…こんなヤマガミと狐に守られてるうちの町は大丈夫かなぁ〜…あー野球大会おわっちゃったなぁ〜…あ!コン吉!!いっちゃんは?』
狐(…こやつが新任か、使えそうじゃのう)
狐「…おおーっとちょっと待っておれ」
そう言うと、コン吉はまたどっかに行ってしまった。
亀[…まったく、無礼な狐じゃのう。さて、わしは前任に挨拶に行くとするかの〜]
のそのそ
のそのそ
腱『…亀蔵…いったい何日かかるんだよ…よし!手伝ってやる!』
亀蔵を抱えて僕は前任の猪さんに挨拶にいったんだけど、数十メートル進んだら猪さんがなんだかしょんぼりしながら前から歩いて来たので、わけを聞いたら、せっかく自由になれたのにお役目御免だと嘆いていたんだけど、お役目ごめんなら自由って事じゃないの?と教えてあげたら、喜んでたなぁ。
そんで帰る間際、猪さんは最初暴れて申し訳なかったと僕に謝ったけど、よくわからないからいいよと言ってあげたら、ありがとうと言ってニコニコしながら走り去っていったんだ。
亀蔵はそれを見送ると、なんだか力が湧いてくる!とかいって、またのそのそと湖に戻っていった。
そんな事をしてるうちにコン吉が戻ってきて、、、
狐「おう!ケン!助かったわい、ありがとう。もうそろそろ元に戻してあげようかのう。」
腱『やったー!なんだかんだいって楽しかったよ!結構時間かかっちゃったけどね。』
狐「…無事すんでよかったわい、さぁ元に戻すぞい」
腱『あ!その前に一つお願いが!』
狐「なんじゃ?」
僕はコン吉にお願い事をすると、コン吉は快く承諾してくれた。
目が覚めると僕は野球大会の試合会場に向かう車の中だった。
腱の父「よく寝てたな!これで今日の試合も大丈夫だな!昨日はずいぶん疲れた顔してたから心配したんだけどな!」
腱『へ?』
結局僕は今までの出来事は夢だったのかと疑ったけど、父さんが壊れたお社をいっちゃんのじいちゃんと直しに行った話を聞いた時に、お社に行く途中の湖で、狐と亀と猪を見てびっくりしたんだって、いっちゃんのじいちゃんは、世代交代か、とよくわかんない事を言ってたって父さんは笑ってたけどね。
試合会場について、倒れたいっちゃんをみんなが囲んでいて起こしにいったら、目覚めたいっちゃんがありがとうって言ってた。
その日絶好調のいっちゃんのホームランの時、空を見て僕は湖を思い出していたんだ。