☆銀しゃ~りんです。☆

果てしないたわごとをつらつらと

【狐のお社~雲~】

チュンチュン
ふわふわ
サーーー
ゴロゴロ
カァーカァー
ゴーーン
ハラハラ
キーーン


空を見る生活になり、一体どのくらいの季節が過ぎただろう。

花咲く春
新緑の夏
落葉の秋
霜柱の冬

それらを感じる事はなくなった。

どんよりとした雲が多くなり薄くのびる雲から何か中に住んでいるかのような大きな入道雲で春と夏の境目を感じ。
空が遠ざかるような感覚と入道雲が散っていき鰯雲になることで夏と秋の境目を感じ。
一層空が遠ざかり、鰯雲がまた集まり分厚い黒い雪雲で秋と冬の境目を感じ。
分厚い雲から太陽が顔をだし、雲から晴れ渡り空が近くなることで冬と春の境目を感じるようになった。

僕がこうなったのは………うーん…もう何年前か忘れたよ。

僕は秋の野球大会の前日、向かいに住んでる親友のけんちゃんと、近所にある古い木でできた小さい建物のようなもの…じいちゃんがオヤシロって読んでたっけ。
そのオヤシロの前でキャッチボールをしていたんだ。
腱『いっちゃん!いくよ!』
圭一『うん!』

ビュッ!
パシッ!

腱『いっちゃん!明日の試合絶対勝とうな!』
圭一『けんちゃんが先発なら絶対勝てるよ!』
腱『いっちゃんも打ってくれよ!』
圭一『うん!絶対打つ!』
ビュッ!
パシッ!

ゴーーン!
腱『あっ!』
ドテンッ!

五時を知らせる近所の鐘に気を取られ、落葉で足を取られてけんちゃんが投げた球が見事にそれてしまい、僕は必死にそれを取ろうとしたんだ。

パシッ!
ドカッ!
ガシャーン!

腱『いっちゃん!大丈夫!』
圭一『いててて、うん…なんとか…』

それた球を取ったまではよかったが、勢いがついていたせいで、オヤシロに突っ込んでしまい、壊してしまったんだ。

腱『…いっちゃん、こういうやつって漫画とかだとこの後祟りだぞー!とか言ってなんかでてくるよね…』
圭一『…う、うん………に、逃げようよ!』

腱、圭一『わーーー!』

僕たちは怖くなって逃げてしまったんだ。

その夜、僕は夢を見た。

〜夢〜
腱『いっちゃん!助けて!キツネに呪われる!』
(わー!けんちゃん!)
腱『いっちゃん!なんかしゃべってよー!』
(けんちゃん!話してるよ!僕はここだよー!)
腱『いっちゃーん!』
狐「コーン!オマエラが壊したお社は俺の住みかだったのに!」

〜現実〜

圭一『わー!』
圭一の母『わーじゃないわよ。。。早くしないと野球の試合に遅刻するよ!』
圭一『わー!』
僕は母にまたびっくりしてしまった。

急いで準備して野球の試合にでかけた。
(今朝の夢…なんか怖いなぁ〜…けんちゃんちゃんと来るかなぁ…)

圭一『監督!おはようございます!』
監督『おう!おはよう!圭一!今日もしっかr……

ヒューーン…

ブツ…

ザーーーーーー

[オハヨウケイイチ…]

何がおきたのかわからなかった。監督に挨拶をした所までは覚えている。その後、聞き覚えのある声で…

気が付いたら僕は空を見ていた。

[ケイイチ…キミハ屋根ダ]
(僕は屋根?)

[ソウ…ソシテ…ケンは壁]

(ケン…けんちゃん!)

[ハナシテモ聞こえナイ]

(君は誰?僕たちを元に戻してよ!)

[…モトニモドセ?キミガ壊シタお社ヲモトニモドセタラナ。]

(…え?やっぱり…ごめん狐さん!わざとじゃなかったんだ…ここは秘密特訓するのにいい場所だったから…)

[…]

それから、お社の狐らしき声は聞こえなくなってしまっていた。

僕は雲の流れで季節を感じるまで長い年月を過ごしている。
僕の下では、けんちゃんが壁として過ごしているようだが、わからない。

ポツン…

パラパラ…

サー…

(雨…)

僕は屋根になって以来、雨や雪は直接顔にかかる。
濡れるのにはなれたけど、空からくる雨は痛い気がする。感覚はないから、気がするだけ。

そんな事を考えていながら、また幾年月。

「おーい!こっちだ!」

(!)

「…あーあー、こんなに壊れちまって…お稲荷様も雨風に濡れてしまって…よし!直すぞ!」

(じいちゃん!)

じいちゃんが、お社を直しに来てくれたんだ。
聞こえてくる話によると、あの野球大会の日以来町で不思議な事が起きてたんだって。
不思議な事…
見てたテレビがブツ…と消えて、雲が映るんだって。季節の変わり目に特に多かったんだって。不思議だね。
そんで、じいちゃんが夕方笑点を見ている時にその不思議な事が起こって、それをしっかり見たら、見たことある空の風景だったらしいんだ。

そんな話を聞きながら、新しいお社が出来て狐は、新しいほうに引っ越ししたんだ。

僕?僕は相変わらず空を見てるよ。

(おーい!話が違うじゃないか!)

[…コーン!]

(お社直したら元に戻してくれるって…)

[…オマエがモトニモドセタラナトイワナカッタカ?]

(…えー!無理だよ!そんなのないよー!)

[…チョット待って]

(…卑怯だよ)

[…オマエがモトニモドセタラナトイワナカッタカ?]

(…それ、さっき聞いたよ?)

[ア、オマエジャナカッタ!]

(?)

[マァ、待てケイイチ]

(…なんだろ、まぁいっか。)

でも僕にはわからない事があったんだ。じいちゃんは[お稲荷様も雨風に濡れてしまって]と言っていた。僕が屋根になってたんじゃなかったっけ?

(ねぇ!狐さんはなんで雨風に濡れたの?僕が屋根なのに…)

[…新シイ社モデキタ事ダシ…]

(ん?)

コーン!

狐が一声吠えると僕は空も見ることが出来なくなっていた。

[ケイイチ、オマエラガ壊したお社、アレはワシがオマエのじいちゃんニオネガイシテツクッテモラッタノダ。夢ノナカデナ。]

(…それを僕が壊したから怒ってるの?)

[怒ッテルワケジャナインダ。実ハナ、アレハ50年クライ前か…当時コノ近辺でヤマガミが荒れ狂う事件ガ起きてなぁ、ソレヲ沈めるには人柱シカナイト、全国お社の狐委員会で決定シタンジャ。]

(…ふーん)

[デモ、わしは人柱ハ反対シタ。それはナゼカ…オマエの婆ちゃんガ候補ダッタカラ…。わしはイゼンオマエの婆ちゃんに罠にカカッテル所を助けてモラッタノダ。]

(…あの婆ちゃんが。)

[やっと調子が戻ってキタ。その恩に報いる為にもどうにか助けたかったのじゃ]

(…僕が屋根になったのに狐さんが濡れた理由は?)
[順番に話すからまっとれ!それでお前のじいちゃんの夢のなかで「婚約者を助けたければオマエの家から、東北の山の裾の山道の入り口右側に、寸法…高さ150センチ、幅100センチの社を建てるんじゃ!」]

(…ずいぶん細かい指示だね)

[同じ事言っておったわい。まぁ、しっかり指示通りのものを建ててくれたので、そこにわしが入る事でどうにかヤマガミ様は納まったがな。]

(狐さんすごい!)

[その頃わしもまだ新米稲荷だったから、古株を説得するのも大変だったんだぞ!]

(…今は小学校でいったら、六年生くらい?)

[…惜しいな、人間社会でいったらようやく主任と言った所かのう。]

(…よくわかんないけどようやく出世したんだね。)
[うむ。まぁ、それはさて置き、お前らがお社を壊した事で、ヤマガミ様が目を覚ましそうになっておったのじゃ。]

(あ!けんちゃんは?けんちゃんはどうしたの?)

[おぉーっと!ちょっとまっとれ!]

(…僕たちどうなっちゃうんだろう。)

空が見えなくなり、狐との会話をしてどのくらいたったかなぁ、けんちゃんも気になってたんだけど、僕は寝てしまったんだ。

[おぉーい、ケイイチ!]

(あ、狐さん。)

[ケンは無事じゃ。お前もそろそろ元に戻してあげよう。]

(え?…あ、でも話続き聞きたい!ヤマガミ様は目を覚ましたの?)

[おう、そうだったな。目を覚ましそうになった所でわしは、お前たちに協力してもらおうと無理矢理参加させたのじゃ。ケンは壁と行ったが、実はヤマガミ様を説得に行っておる。ケイイチ、お前は町にヤマガミ様がでないように、結界となってもらってたのじゃ。]
(…けんちゃんがそんな危ない目に…)

[ケンも初めは嫌がっておったのじゃが、急におとなしくなってな。いっちゃんに行かせるくらいなら僕が行くってな。]

(…けんちゃん)

[それで、ケンがヤマガミ様を眠らせる事に成功したのでな、また新しいお社を作ってもらい、わしが見守る事にしたのじゃ。]

(じゃあ、僕たち元に戻れるの?)

[うむ、ちょいと時間がかかったが、人間界で言うところの2年じゃな。]

(…野球大会終わっちゃった。)

[ケンも言っておったわ…]
(でも、またけんちゃんと野球ができるなら…)

[うむ。では、元に戻すぞ!]

(あ!ひとつ、お願いが!)
[なんじゃ?]

僕は狐にお願い事をした。すると、狐は少し笑ったような表情をした気がした。

腱『いっちゃん!大丈夫!』
圭一『うん、けんちゃん、ありがとね!』

監督『よーし!しまって行ってこい!今日は勝てそうな気がするぞ!』

その日、僕達は試合に勝った。

最後の打席、僕の打球が、鰯雲を突き抜けるように打ち上がり、スタンドに突き刺さった。