☆銀しゃ~りんです。☆

果てしないたわごとをつらつらと

【食欲】

『今朝食べた生卵かなぁ…いたたた…早くトイレ探さないと…』

普段と変わらぬ日常。
日課の卵かけご飯を食べて、出社する途中だった。

ただいつもと違ったのは、日課で寄ってるお店でいつも買っていた卵が売り切れていて、普段通らない道に自動販売機の卵が売っていたので、それを朝食に食べたと言うこと。

『でも、新鮮だったんだよなぁ〜…白身もこんもりしていたし…いたたた…』

一人で卵の文句を言いながらトイレを探した。

引っ越してきて半年になるが、家から会社までの道のりは何通りかある。

朝は決まって、駅までの道のりが一番短い通りを選ぶ。
ただ、この通りは自販機が一つあるだけでその外は何もない。けど、何もないぶん朝の空気は澄んでいて清々しい。
いつも壁の上で朝から陽なたぼっこを始めているネコの[しゃもキチ]にししゃもをあげて、唯一の自販機でコーヒーを買う。
飲みながらむかい、駅についたら、空き缶を駅のごみ箱に入れて、電車に乗り会社に行くのが日課だ。

帰りは買い物ついでが多いため、朝とは別の道の比較的にぎやかな商店街を通る。

そうこうしているうちに、いつも通る[自販機の道]や、[商店街]とは違う、[薄暗い道]で、トイレを見つけた。

『やっと見つけた!』
歓び勇んでトイレに駆け込もうとすると、トイレの前に一匹の犬がいた。
野良犬なのか、こちらを警戒しながらも、エサをくれと言わんばかりにしっぽを振っていた。

『…あー、もう仕方ないなぁ〜…ほらよ!』

と、お昼に食べようと思い、今朝作ってきた[おにぎり]を与えると、野良犬はしっぽを振って食べ始めた。
その様子を微笑ましく見ていたが、腹痛の第2波が襲い掛かり、トイレに駆け込んだ。

『…ふぅ〜』

無事、用をたしトイレでホッとしながら見上げると、トイレのドアになにやら番号がふってある。。。

『7番…』

なんて事ない、ただの番号だろう?と思い、トイレを流した後、トイレを出ようとした瞬間…

ドンドンドンドン!
けたたましく鳴り響くドアを叩く音。

『はいはい!今、出ますよ!』

「7番!早く出てこい!もう、起床の時間1分も過ぎてるぞ!」

『…はい、、、ん?起床?』

全く理解出来なかった。

疑問に思いながらもトイレのドアを開けると、そこには警棒を持った看守風の男が立っていた。

「7番!早くしないか!連帯責任だぞ!」

『…へ?ここはトイレじゃー…』

「気でも狂ったふりしても逃げられないぞ!この、第28107刑務所からはな!さぁ!朝の体操の時間だが、貴様が遅れたお陰で、7、8、9番は連帯責任で独房の掃除だ!」

『ちょっ…うわ!俺は何もやってない!離せ!離せよ!』

8番「よう!新入り!よろしくな!」

先ほど、俺のお陰で連帯責任を食らった8番が話し掛けて来た。

『…なんでこんなことに』
8「…くっくっく、本当だ!なんでこんなことになったんだろうなぁ〜!」

『あんたはなんで笑っていられるんだ?』

8「笑いたくもなるさ…つい数日前は俺も…」

9「そこまでニャ」

『ニャ?…あ!』

なんと、そこにいた9番は、毎朝ししゃもをあげていた[しゃもキチ]だったのだ。
『しゃもキチ!なんでこんなところに!』

9「ご主人様、こちらでははじめましてニャ。いつもおいしいししゃもをありがとうニャ!ご主人には感謝してるニャ!」

『あ!しゃべってる!』

9「…遅いニャ」

『…すまんニャ』

9「時に、ご主人!卵は好きかニャ?」

『おう!大好き!毎日食べてるニャ!』

9「…はぁ〜」

8「くっくっくっくっ…」
『へ?』

「7、8、9!終わりだ外へ出ろ!第28107刑務所所長が貴様らを指名だ![自販機の間]にて待つ!」

8、9「はい。ニャ。」

『ちょっ…今度はどこー!って…え?[自販機の間]?』

看守に言われ、しぶしぶついていった。
一体看守が何の要件だろうと疑問に思いながら、黙々と歩いた。
[自販機の間]と大きく書かれた部屋の前に到着すると、しゃもキチが小声で話し掛けてきた。

9「所長には正直に答えるニャ、嘘は絶対ばれるニャ。三歩歩いたら忘れるけど…」

「入るぞ!気を引きしめい!」

?「コーケコッコー!」

ドアを開けた瞬間だった、朝の清々しさを一層引き立てる、鶏の鳴き声。

『…これは』

そう、[自販機の間]に入ると見慣れた自販機が置いてあり、人がくるとセンサーで話し掛けるいつものやつだった。

?「まいどー!今日も1日頑張ってやー!」

『…ぷっ』

コミカルな音楽と、いつもの自販機の声に思わず今置かれている状況を忘れ、笑ってしまった。

8「…あ〜あ」

9「…」

?「こらー!7番何を笑っているか!」

『すいませーん!!………へ?』

事態が更に飲み込めなかった。
自販機の奥から、丸々とした鶏がでてきた。

鶏「これより、7番、8番、9番の裁判を始める」

『裁判…ちょっと!俺が何したってんだ!』

8「…卵」
9「…好きニャ?」

『えーーーーー!!』

鶏「うるさーい!コーケコッコー!さぁ、7番!貴様らが今朝食べたものを言ってみろ!」

『…卵…です』

鶏「8番!9番!」

8「フライドチキン」

9「ししゃもとヒヨコ…ニャ」

鶏「コーケコッコー!有罪!有罪!貴様等まとめて有罪!刑法1番とする!」

看守「はっ!7!8!9!刑が確定した来い!」

8、9「終わった…ニャ」
『どーなるのー!!』

9「所長の気が納まるまでただ働きニャ」

『…殺されるわけではないのね?』

8「…さぁな…くっくっく」
そして、看守に連れてこられたのは[薄暗い道]の間だった。

看守「入れ。貴様らは今日からここで卵を産んでもらう」

『産めるわけないだろー!!』

看守「…コケー!」

看守の声を聞いた途端に、急に眠気が襲って来た。
目が覚めると、ギュウギュウ詰めに詰め込まれた鶏達の中にいた。

『おーい!8番!しゃもキチー!』

8「…」

9「コケー!」

目の前には、一目でそれとわかることができない二人の姿があった。
認識できたのは、二人の足に取り付けられた番号だった。
あたりは薄暗く常に明け方のようだった。
まわりの鶏達をよく見るとみんな足に番号が取り付けられていた。
まさかと思い自分自身を確認しようとした…

『…鶏になってる』

頭の中では言葉を発しているが、それが周りには伝わっていない、おそらく先ほどのしゃもキチ同様、周りにはコケコッコとしか聞こえていないのだろう。

考えた、これは夢だ。すべて夢に違いない!明日になればきっとまたいつもの朝が始まる…

しかし、薄暗い室内は現在の時刻すら把握できない。
時折、人らしきものが眠そうな顔をして我らに餌をやりにくる。
8番も、しゃもキチも、自分も事態を受け入れ初めていた。

定期的に体内からくる衝動。腹痛にもにた激痛が走りそこで気を失い気が付くと腹のしたに卵がある。
人らしきものが餌をやりにくるので仕方なく食べに行くと、あたためていた卵はなくなっている。

その繰り返しでもう時間も自分の存在を忘れ始めていた。

もう、何ヵ月たっただろう…
会社は大丈夫だろうか、家賃払わなくては…
人だった頃の記憶を辿りながら辛うじて生きていた。
その時事件が起きた。

ドーーーン!!!!

奥の方の扉が開いた、何ヵ月かぶりの本物の光だ…

いつも餌をやりにくるものとは様子が違う、宇宙服のような格好のものが現れた。

餌をやりにくるものとの会話が聞こえた。

宇宙服の男「…近所の養鶏所……鳥イン…エ…ザ…検査…」

いつもの男「えー!!……すぐに……お願い……す!」

よく聞き取れなかったが、鳥インフルエンザの事だと悟った。

8番がつれていかれた。
検査結果によっては命はない…もはや人ではないが、命は惜しい。

扉が開いた方へと勘を頼りに行ってみた。
扉の近くには、90から99番の鶏がいたが、その中に9番…しゃもキチもいた。
どうやら、同じように身の危険を感じ扉に近づいたようだ。この頃には鶏の言葉を理解するようになり、簡単な会話はできた。

『しゃもキチ!お前も!』
9「ニャ!」
しかし、これからどうするかがわからない…無論鶏である我々の力では到底扉は開かない。

その時だ!
ドーーーン!
また扉が開いた!8番の検査結果がでたようだ。どうやら、この養鶏所にはインフルエンザは来てないようだった。
一安心したのもつかの間だった!

ワンワンワンワン!

隙間から野犬の群れがなだれこんできた!

こうなると、インフルエンザどころの騒ぎじゃない!それこそ食料にされかねない!

群れは全部で10匹!
次々に野犬にくわえられていく、鶏!

その内の数匹がこちらにきた!
逃げようにもギュウギュウ詰めの室内では逃げ場はなく、運悪く、自分、8番、しゃもキチがくわえられた。
『…もう終わった…もっと人生楽しみたかったなぁ…あー…今は鶏か…ははは』
諦めにも似た境地に追い込まれ、されるがまま野犬のリーダーの所へと連れていかれた。

ワンワン!

『…食うなら一思いに食え!』

ワン!ヘッヘッヘ!

『だらしなく舌なんか出しやがって…』

クーンクーン…ペロッ

『!!!!』

そう、そこにいた野犬のリーダーは、自分が薄暗い道のトイレに入る前におにぎりをあげた犬だった!
野犬にペロッと舐められ、ふと気を失い気が付くと、今度は犬になっていた。

犬「…ご主人!大丈夫ですかい!あっしはこの犬組を束かっておりやす、犬介と申しやす!いつぞやは世話になりやした!」

『…あー…まさかお前だとはねぇ…』

犬介「この養鶏所は、鶏、卵などを好んで食べているものが送り込まれている、施設です。」

『…やはり…どーしたら戻れる?お前もあの時戻ったんだろ?』

犬「へぃ!お察しの通りです…あっしの場合はちと特殊でしたがね…根本的な解決方法は…鶏組…第28107刑務所所長を…食べる事です」

『!?…そんな事!………しかしいつも人間がしてきた事か…』

犬「…」

8「…俺はやるぜ…もとより鶏肉は大好物だ!あばよ!」
『おい!ちょっとまて!…行ってしまったか…』

9「おいらはどちらでもいいニャ…もともと気ままな猫だったニャ…今さら犬になったからって不自由ニャわけでもニャいし」

犬「…ご主人の舎弟と思い助けましたが、8番は…駄目ですね。9番は面倒みやしょう!さぁ、ご主人はどうなさるんで?」

『食べようにも…手が無いからなぁ…人間がしてきた事とはいえ、一度は会話した鶏。気が引ける。しかし、そうも言ってられないな。生卵は好物だった。話し合いでどうにかなればいいけど』

犬「…ご主人は甘いですね。だがしかし、それがいい!分かりやした!ご一緒いたしやす!」

話が決まるとみな一斉に走りだした。
野を駆け、山を越え、海を渡り、たどり着いたあの場所。

しかし、たどり着いた時にはすでに遅かった。
所長はすでに食用に出されてしまったのだと門に張り紙がだされていた。
鶏界のプリンスと言えど人間の食欲には勝てなかったようだ。

『…まいったね』

犬「…犬のまま過ごしますか?」

『…こうなったら、なんでもいい、刑務所に乗り込むぞ!』

所内はもぬけの殻だった。
[自販機の間]の入り口に張り紙がしてあった。

【第28107刑務所〜鶏所〜は、都合により閉鎖させていただきます。】

途方にくれた。
みな言葉なくそこを後にした。
その時だった!

?「コーケコッコー!」

けたたましく鳴り響く鶏の声!

聞こえたほうを振り向くと、自販機があった。

懐かしくなり、自販機に近づく。
自販機に並べられている種類を見てみた。


[猫][犬][人]


『…まさかな〜』

 

まさかと思った。
これを飲めばあるいは!?
しかし、手持ちがない。
所内をくまなく駆け回る。
見つけた…百円玉2つ。

喜び勇んだ!急いで野良犬の群れに戻り、自販機と百円の話をした。

犬「…これで人間に戻れやすね!」

9「ご主人おたっしゃで!」

『うん、ありがとう!』
そして、自販機に向かう。

そこには8番がいた。

8「おい!それをよこせ!俺が人間に戻るんだ!」

8番に不意をつかれ、百円を奪われた。

ガシャン!

[人]とかかれた缶のボタンを押し、でてきたものを飲み始めた。

8「ははは!やっと戻れるニャー!!」

8「…ニャー?ウニャーーーーー!!」

どうやら、焦りすぎて間違えてしまったようである。自分は猫になった8をなだめ、今度は確実に[人]とかかれたものを買った。

それを、自慢の牙で割り皿にあける。
でてきたものの半分を飲み、残りを8番としゃもキチに預けその場を後にした。
門を出た所で綺麗な夕日を眺め、気を失った。
気が付くとあのトイレだった。トイレにはもう番号がない。

なんとも言えない気分でトイレを後にした。

家にもどり日時を確認すると、あの日からまる1日しかたっていなかった。

結局あの体験はトイレで見た夢だったんだろうか。
翌朝、いつものように卵かけご飯を食べて家を出た。
ししゃもを手に持ち自販機の道を通ったがしゃもキチはいなかった。

『しゃもキチ…』

いつものようにコーヒーを買おうと自販機に行くと、一人の女性が立っていた。

女性「右から2番目は鶏にゃ」


『…にゃ?…………!?』

 


☆おしまい☆