☆銀しゃ~りんです。☆

果てしないたわごとをつらつらと

【思ひ】【掟】

【思ひ】
色々思う所のある方が多いようで。

冬がようやく終わりを迎え、春が目覚め始める。

春といううわついた気分に中毒られて、心狂わす人も多いかと思う。

花が咲き誇り、動物達も目を覚まし、山や海が動きだす。

街角にある桜の木

あれはもう長いことこの街にある。樹齢何百年の代物だと思う。
得てして、そういった長老木には不思議な体験談があるものだ。
しかしながら、そういった体験に私はあったことがない。
ないのでなんとも言えないが、不思議な感じなんだろうなぁ。

不思議な感じとは何か…

きっとうわついた己の心が作り出す幻なのかもしれない。幻か真か…それはただただ己のみぞ知る所。
長老木は今も静かに風に揺らめいてざわついている。
木の根本にふと目をやると、一組の老夫婦が木を眺めていた。
何か、思い出の木なのか、どうかは知るよしもなく、老夫婦は木を眺めていた。
そこに幼稚園くらい一人の少年が老夫婦に声をかける。
お孫さんなのだろうか?一言、二言言葉を交した少年と老夫婦は木に何か言葉をかけ、手を繋いでその場を去っていった。
私はその木が気になり、車を降りて、根本まで向かって歩いて行った。
木には特に変わった様子はなく、凛としてそこにそびえ立っていた。その様子に何かを感じ、私は木に心の中で声をかけた。

『長生きしなよ』

その言葉に反応したのか、木は急にざわざわと葉を揺らし、答えてくれたかのようだった。

車に戻ると一通のメールが届いていた。

それは何てことのない友人からのメール。お花見の計画のメールだった。

メールを返し、その場を去る間際、ふと桜の木に目をやると、老夫婦と少年がもどってきていた。

すると、少年は一人別の方に走り去って行った。

その様子をみた老夫婦は笑顔で少年を見送り、また木を眺めていた。

しばらく私も眺めていた。

程なくして、老夫婦はまた木に言葉をかけて去ろうとしていた。
私も仕事に戻らなければと思い、車を出そうとした瞬間、、、

『ありがとう』

と、言葉が聞こえた。

優しい声だった。

木の方を見てみたら、老夫婦がこちらを向いて手を降っていた。

一つお辞儀をし、その場を去った。

車を泊めていた方角からは見えなかったが、その木に隠れて、一回り小さい木と、その間にはえはじめたばかりの木が植わっていた。


不思議な感じがした。

 

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【掟】


とある山奥の村
仙人と呼ばれている男の話。

貧弱な体つきに伸びきった白髪を一つに縛り、口にはナイアガラの滝のように綺麗に垂れ下がるこれまた白髪の髭。

仙人は山に住み、山と共に生きる。山の恵みに生かされ、山の掟に傷付き、山の主に感謝をする。


『主殿、今日も山の恵みを少しばかりいただきに参りました。』

山の主は沼地に住む、大きな甲羅を背負った亀だった。

主は眉毛にも見える白い触覚のようなものを生やし、髭にも見える緑の苔を顎に着けており、甲羅には、四季おりおりの草花を生やしていた。


手足も甲羅の如く固くはあるが、釣り針や絡まった糸などがいくつもついており、白く輝くそれは皮肉にも主が雲に乗っているように見え、主の主たる所以を助長しているかのようだった。


人語を操れるか否かは問題ではない。

主は黙ってその場を去る。
すると、仙人の手の中には数匹の魚と木の実が与えられる。


この光景を目の当たりにした私は、以来仙人の元で身の回りを世話をするはめになった。


仙人『…私は仙人ではない。ただの森の番人だ』


私『…しかし、主様は禅吉じぃさんを生かして…』

仙人は名を禅吉と言った。
自らを仙人と呼ばれる事を嫌い、私にも禅吉じぃさんと呼ぶように念を押された。


禅吉『…徳兵衛よ、お前にも主殿が見えるであろう?その意を受取り、決して軽んじてはいかんぞ。よいな。』


私は名を徳兵衛と言い、百性をしていた。

田畑を耕すのは嫌いではなかった。
だが、少しばかり飽きている節もあり、村の離れにある仙人の住む森に誰も釣り上げた事のない数メートルの魚がいると言う噂を聞き、そいつを釣りに来た時に主様を見てしまったのである。


(…なぜ私は主様が見えたのだろうか)


禅吉『腹もふくれた、徳兵衛…、今日は特別な日だ、もう一度主殿の所に行き、酒をいただこう。』

徳兵衛『はい。』


今日は特別な日。村では祭りが行われており、村の方角は篝火の灯りが絶える事はなかった。


主様の元へ行き、仙人が主様を探す。
私は主様に献上する薬草を持っていた。
主様は人間達が落としていく釣り針や糸を全て自らが受け止め、体に宿す。そうして森や沼を守って来た。
その傷を癒す薬草を作る。それが私の大きな仕事だった。


禅吉『主殿、今日はお祭りです。主殿も今日ばかりは体をやすめられよ。』

主様が現れる。

神様、仏様ではないので光ったりはしない。

主様はいつも静かに現れ、静かに去る。森や沼の秩序を汚さぬ為だとか、主様も元は普通の亀で、その性質は守っているだとか、色々説はあるが、本当の所はわからない。

主様は私が持つ薬をくわえて沼の奥へと入る。
しばらくすると一匹の猿が現れた。手にはどぶろくを持つ。
仙人の手に食物などが現れない時は決まってこの猿が運んでくる。仙人が言うには次の主様になる【運び屋】と呼ばれるものらしい。

禅吉『運び屋殿も一献いかがかな?』

運び屋はだまって盃を受取り一口飲みその場を去る。
仙人『では、いただいて行きます。』

私『感謝致します。』

仙人『徳兵衛や、クコの実を少し取って行こう。』

私『主様、いただいていきます。』

沼のそばになっている実を少し取り、小屋へと帰った。


小屋につくやいなや、仙人はクコの実を少しばかりどぶろくに混ぜる。すると不思議な事に酒は透明に澄み、少し光をおびたかのようになる。


その酒を仙人と私で飲み干して眠りにつく。


(…)

(……衛)

(徳兵衛、我等の時代は終りを向かえる。次からはお前が森の番人だ…)

主様のお顔が見え、声が聞こえた。そして目が覚めた。

(夢か…)

空が白くなりゆく姿を小屋の隙間から見えた気がして、仙人を起こそうとした。

しかし、仙人の姿はない。
夢の言葉を思い出した。

主様を探しに沼へ行った。

沼のほとりには、四季おりおりの草花が生えていた。

そこから、主様の甲羅を持った運び屋様が現れる。

 

(…私のさだめ)

 

 

元主様の甲羅を使い、運び屋様改め、新しい主様と酒を交した。

 

以後、村人達から私は仙人と呼ばれ、禅吉じぃさんは白髪が見事に黒くなり、私の元いた家で百性をしていた。


禅吉じぃさんを仙人と呼ぶ村人は一人もいなかった。
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