☆銀しゃ~りんです。☆

果てしないたわごとをつらつらと

【うつしかがみ】

ふと見上げると桜の花の隙間から、うっすらと雲に隠れた月が見えた。
月は時折主張しながらも、雲に隠れて存在をぼやかす。

桜を見上げながらまた月を探す。
花吹雪の中にぼやけた月を見つけた。
しばらく眺めていると、桜吹雪が舞い上がり、何かきこえてくる。

サー…

はじめは木々を風が揺らす音。

ザワ…

どこかで誰が話すような声。
ピーポーピーポー…

時折聞こえる救急車のけたたましい音。

風がやみ、桜吹雪も落ち着く頃、頭の中がザワザワとする。

この季節になるといつもやってくる。アイツだ。

?「月をお探しかえ?」

私「…またか」

花吹雪と共に聞こえる騒音の中にある静けさにも似た声。
その声に頭の中で応える。

?「今年も桜の季節ですね」

私「毎年、毎年きれいに咲き誇るね〜」

声は少し浮ついたようなトーンで話しだす。

?「月もいいですが、やっぱり桜ですよね〜!」

私「桜を通して見える月もまたおつなもの」

?「あなた様はいつも月ばかり…こんな時くらい桜を見てくださいな?」

今度は困ったような声で私を説得にかかる。
毎年、桜吹雪と月が見えた時、この同じ場所で同じ声がする。
初めて聞こえた時は流石に肝を冷やしたが、聞こえる声の穏やかさもあり、流石に30年聞こえてくれば慣れもする。

?「あなた様とは、30年のやりとりになりますね」
私「そんなんなるかー、そりゃ歳もとるよなー」

?「わたくしにとってはとるにたらない期間ですが」
私「やっぱりあんた桜なのかい?」

?「うふふふふ」

いつもこうだ。
決まってはぐらかされる。
私「もう30年にもなるんだからいい加減教えてくれてもいいだろ?」

?「そうですね…そしたら条件をだしましょう」

私「ん?新しい展開だな!よし、どんな条件だ?」

?「わたくしが今から言う事をよくきいてくださいね」

私「あいよ」

月を眺めながら私は耳を澄ませた。
直接頭に話し掛けられてるんだから耳を澄ますも何もないんだろうけど、耳を澄ませた。

サー…

ザワー…

風が吹き、木々を揺らし桜吹雪はより一層の量をもってあたりを包む。

ぶわっ

舞い上がる桜吹雪、月をかくし当たり一面はそこだけ桜の花びらの海のようにすら感じる。

風がやみ、桜吹雪も落ち着きをとりもどし、緩やかに、一枚一枚、ふわりふわりと落ちてゆく。

緩やかにおちる一枚の花びらに注目しながら耳を澄ます。

注目していた花びらが落ち、空に目を見やると、月がでていた。
雲も晴れ、緩やかなる桜の花びらと枝葉からみえる月はまた格別だった。

木々の間から綺麗に見えた月は輝きを増していた。

桜は絶えず落ち続ける。
月は絶えず輝き続ける。

?「わたくしの正体わかったかしら?」

私「なんのこっちゃ?」

?「うふふふ」

私「…まーたはぐらかされたか」

?「はぐらかしてなんかいませんよ」

私「…ま、いっか」

そこから問い詰める気もおきず、持ってきていたグラスに酒を注ぐ。

私(少し酔ったかな)

グラスに注いだ酒に、月が写る。さぁ、酒ごと月を飲みこむぞ、と飲もうとした瞬間、月は落ちてきた花びらに隠された。

見上げた空には月が光る。
雲に隠れぼんやりと光る。
グラスには月をかくした花びらが見える。


?「お連れ様はまだいらっしゃらないのでしょうね」

私「ああ、月が沈んでからだな」

ブルーシートに横たわり、月を見ながら眠りについた。

?「30年も毎年花見の席とりだなんて、桜が好きなんですね」

私「半分以上はお祭り騒ぎの口実だがね」

?「では、秋口にお月見なんていかがでしょう?」

私「あんた実は……ふわ〜…眠いな。ま、いっか、おやすみ、また来年!」

?「うふふふ」

眠りにつくと決まって夢を見る。

このいつもの花見の場所に来て、あいつと話して寝ると見る夢。


男「今宵も良い月じゃのう〜」

女「私は舞落ちるいとおしい桜が好きですわ」

男「桜もいいのー!舞散る桜の先に見える月も綺麗じゃ!」

女「あなた様はいつも月ばかり」

男「なんでかのー月を見ていると落ち着くんじゃ」

女「そうですね〜」

2人は桜の木の下で桜と月を見ながらぼんやりとしていた。

男「そうじゃ!今日は…ほれ!」

そう言って男は女に湯飲みを渡す。

女「ん?」

女は不思議そうな顔で湯飲みを見つめる。男がこれを渡した意味はなんだろうなどとは考えない。ただただ、不思議そうに見つめる。
カチッ

トクトクトク

女は音のなる方を見つめると、男が自分の湯飲みに酒を注いでいた。
続けて女の湯飲みに酒を注ぐ。

トクトクトク

男「よし!飲もう!今日はみんな寝てるはずだ!」

女「はい〜」

女は言われるがまま飲み続け、いつの間にか寝てしまう。
すぐに目が覚める。
すぐに目が覚めた。
すぐに目が覚めたはずだった。

女の前にいた男の姿はない。そこまで寝込んだか?と辺りを見回してみても、まだ夜だった。

女の手元には湯飲みはある。
あの男は夢ではない。
そう思い女は辺りを再度見回す。

女「…はて」

そう言っては桜の木のまわりを回りはじめる。
いったい何周したであろう、桜はすっかり散ってしまっていた。
しかし夜は明けない。
女はふと気が付く。
姿形は似ているがいつも出会う男達が年老いていく事を。

それに気が付いた女は木の周りを回るのをやめた。

いつしか、現れる男に話しかけ、自分がなにものなのか知るまで問い続ける事に決めた。

女「私のするべき事…」


パチッ


決まってそこで目が覚める。
30年間ここに来る度に見る夢。
結局あの女がなにものなのかはわからない。
桜の精霊なのか、もしくは月の精霊なのか。。。

毎年毎年飽きもせず、自分が何者なのか探しながら私に話し掛けてくるアレはもしかしたら…

遠くから声が聞こえる。
私を呼ぶ声。

私「おー!みんな、待ってたよ!さて、はじめるか!」

桜の花びらは絶えずヒラヒラ舞っている。
満開の木々の隙間から差し込む光が花びらを乱反射して輝いていた。